2016/12/31

「犬になりたくなかった犬」


Farley Mowat著 原題 The Dog Who Wouldn't Be

うんと昔の愛読書。著者はカナダの作家・ナチュラリストで「狼よ泣くな」などの著書で有名。近年シーシェパードが彼らの船舶に命名しているので聞き覚えのある人は結構いるだろう。著者はあんな連中に出資していたらしい。フランスの有名な海洋学者、故ジャック=イヴ・クストーも、日本の捕鯨に関するグリーンピースの荒唐無稽なプロパガンダ(鯨肉をドッグフードにしているとか)を無批判に信じ込み、著書にも書いていた。

英語版でもう一度読んでみたいと思った。なんとか Kindle 版を買いたかったが amazon.com でも Kindle 化されてないらしいので amazon.co.jp でペーパーバックを554円で買った。すらすら読めない他国語の本は、特に安い装丁の紙の本では読みづらい。判らない単語があったら辞書引かなきゃならない。学校の教科書以外書き込みや下線引きなど一切しないんだけど、こういう質の悪い紙の本にならやってもいいかな。繊維のしおりも付いてないんだし。

著者は1921年に東部オンタリオ州で生まれ、大伯父の影響を受けて生物の研究を志す。八歳の時に両親と共に中西部サスカチワン州に移住 (他に手段がないのでT型フォードのシャーシを利用して手作りした今風に言うならキャンピングカーを、山のように荷物を積んだA型フォードで牽引して行った)。建設されて三十年経たない州都サスカトゥーンの外れに住み手付かずの大自然に囲まれて育った。カナダ北部の野生動物に関する著作で名声を得た。2014年没。

この本は彼らがサスカトゥーンに引っ越して間もなく飼い始めた雑種の犬と共に西部の町や平原で体験した生活と冒険の物語である。しかし今思うと話を面白くするため結構誇張や創作が入っていると見なさざるをえない。

自分の犬の話になるが、さちを初めて駒沢公園のドッグランに連れて行った時、あるウィペットが数十m先から凄い勢いで突っかかってきた。中型以上のサイトハウンドにはこうした他犬をおもちゃのように扱う犬がいるから好かない (末尾のYouTubeリンクも参照)。ボルゾイとか特に。

さちはただお腹を見せて済むような正常な相手ではないと感じたのだろう、異様な行動をとった。すなわち相手に腹を向けて横倒しになると同時に、四肢を攻撃を防ぐかのように早技で繰り出しながら、それまでもそれ以後も聞いたことのない金切り声を発した。

これを見てこの本に出てくる著者の犬マットの不思議な行動を思い出した。かつて侵入した泥棒を捕まえて肉屋の肉のようにしてしまったという四頭の獰猛なハスキーが待つ裏庭に、猫を追って入り込んで囲まれた時、仰向けになって四肢を動かしサイレンのような声を発し、それがハスキー共を恐れさせて窮地を脱したという。また別の時は構わず飛びかかって来た頭のおかしい犬を四肢で空中に放り上げ、その犬は爪で滅茶苦茶引っかかれ血まみれになって退却したとか。

ン十年前にそれを読んだときにはだいたい真に受けていたのだが、しかし犬の爪なんか武器にならないじゃないか。さちが本能的にそういう行動をとったからには何らかの効果がある場合があるんだろう。しかし四頭の猛るハスキーからどうして助かったかわからないが、後の話は全くの創作ではないか?

当時のカナダではもちろん犬を繋いで飼うという風習や法律はなく、犬は市内外を自由に歩き回ってい、リードを使って散歩させる習慣すらなかったようだ (著者らは初めマットに猟の邪魔をさせないようリードを使ったが、彼が完璧に回収犬として振舞った時それを湖に投げ捨てている) 。町では上下に水平に渡した2×4インチの桟に板を縦に並べて打ち付けた板塀が裏庭の囲いとして広く使われていて、これが猫たちに安全な通路を提供していたが、マットは猫狩りや攻撃的な犬から身を守る目的で、この横桟の上を自由に歩くことをおぼえた。また梯子を登ることもおぼえ、樹に登ることさえ試みていたという。

著者は哺乳類鳥類爬虫類といろんな動物を好んで飼ったが猫だけは好きでなかったようで、友人らと竹竿を持って自転車に乗りベンガル槍騎兵隊の虎狩りと称して猫を追い回したらしい。マットが梯子登りをおぼえた後、著者らは近所で Cat Lady と呼ばれていた、屋敷内に数十匹の猫を飼い、保健所職員に数を把握されぬよう日中は猫を屋内に閉じ込め、夜間二階の窓から屋根の上に出して運動させていた人の家の敷地に、一夜忍び込んで屋根に梯子を掛けマットに登らせて殺生三昧をさせ、その騒動の後その家の隣人から新品の22口径ライフルを黙ってプレゼントされたという。

大らかでいい時代、いい土地柄だなあ。今日本でこんなことをしたらただじゃ済まない。

犬になりたくなかった犬

付け足り1:原作中のマットのとった行動の描写 Books'Cool より引用: "With one quick motion he flung himself over on his back and began to pedal furiously with all four feet. It looked rather as if he were riding a bicycle built for two, but upside down. He also began to sound his siren. This was a noise he made – just how, I do not know – deep in the back of his throat. It was a kind of frenzied wail. The siren rose in pitch and volume as his legs increased their R.P.M.’s, until he began to sound like a gas turbine at full throttle."

付け足り2:一躍名声を得た「狼よ泣くな」も、フィクションが多いとこき下ろされている。特に狼群に対抗して岩から岩へと小便を掛けて歩き、狼たちにテリトリーを認めさせたという部分は大いに疑われている。

付け足り3:サルーキのシャマル君、さちを運動させる

付け足り4:米国の作家 Beverly Cleary が書いて 1950年に出版された "Henry Huggins" (日本語訳タイトル「がんばれヘンリー君」) や、著者が自分の少女時代について書いた文によると、その時代の米国のオレゴン州ポートランドなどでは犬を繋いで飼う法律も習慣もなく、犬は通りを自由に往来していて特定個人または家族の犬というよりその界隈の犬というべき存在だったという。首輪と鑑札は全ての飼い犬が着けていたが、リードなどはない家が多かったと。

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